| 第８話 人魚の歌にご用心！（上）の巻 その１ | |
| 空は青く晴れわたり、海の上をさわやかな風が吹いている、おだやかな日でした。 カシムの輝き号は、順調に航海を続けています。 明るい陽が降り注ぐ甲板では、クレオやザリオーたちアルカタブール王宮の親衛隊（しんえいたい）の男達が、剣の練習をしていました。 ランプの精セシンは甲板の手すりに座って、その様子を面白がって見物していました。 そうしているとランプの精セシンも、普通の男の子と変わらないように見えました。 サルの姿をしたカシム王子も、甲板で親衛隊の訓練を見ていました。 「スキあり〜！」 「甘い！」 親衛隊隊長のクレオの剣が、ふみこんできた隊員ザリオーの剣をはらって飛ばしました。 「さすが、クレオ隊長！」 周りはやんやの喝采（かっさい）です。子ザルの姿のカシム王子も拍手をしています。 初めて親衛隊の訓練を見たシャララは、その迫力におどろきました。 「うわ！すご〜い、クレオさん。でも、危なくないの？」 「大丈夫ですよ、シャララさん。これは、練習用の剣ですからね。 私たちの仕事は、カシム王子をお守りする事ですからね。普段から、こうやって練習しておくのですよ。」 「そうなんだ、スゴーイ！」 熱心なクレオの言葉に、シャララは感激したのです。 「そうだ！ラムダさんも呼んでこよ〜っと！」 「ラムダさん、いる〜？」 シャララは、ラムダのいる船室に飛び込みました。 「甲板でクレオさんたちが、剣の練習をしているの。すごいんですよ〜！ みんな見物しているの。ラムダさんも見に行きましょうよ！」 ラムダは薄暗い船室の中で、いつも通り水晶玉を前に何かを熱心に占っていました。 「ラムダさ〜ん！」 「えっ？ああ、シャララさん。私は仕事があるから、上には行けませんわ・・・」 「ダメですよ〜。ラムダさん、いつも船室の中ばっかりだし、太陽の光を浴びないと体に悪いって、死んだ母さんが言ってたわ。いっしょに上に行きましょ！」 シャララは、ラムダの腕を強引に引っ張ります。 「あ、ああ〜、シャララさん？！」 甲板には、相変わらず陽の光がまぶしい位にサンサンとふっていました。 「おおっと、じゃ、今度は一つ、オイラがクレオの相手をしてやろうか？」 座っていた手すりから飛び降りると、セシンがイタズラっぽくニヤニヤ笑いながら言いました。 「ええっ〜？」 甲板にいた人々から、思わず驚きの声が上がりました。 「ランプの精が、剣の試合〜？」 「クレオ隊長と、試合だと？ふざけんなっ！大方、お得意の魔法でも使って、負かしてやろうと考えてんだろ？」 ザリオーがセシンにつっかかります。 「魔法なんかの力を借りなくても、剣くらいオイラにも使えるさっ！ もっともン百年やっちゃいないけど、バカザリオー、おまえよりよっぽど使えると思うぜ！」 「な、なにぃ〜！このクソナマイキなランプの精が！ クレオ隊長の前に、まずオレと勝負してからにしろ！」 ザリオーは、セシンの言葉にカンカンです。 「よせっ！ザリオー」 隊長のクレオはザリオーを止めようとしましたが、ザリオーは聞く耳を持ちません。 「クレオ隊長、やらせて下さい。このガキ、オレたち親衛隊の事をバカにしてるんですよ。 クレオ隊長が相手をする必要なんてないですよ」 甲板にいた見物人たちは、ガヤガヤと面白そうにその光景を見ていました。 「なに、なに、なぁ〜に？どうしたの？」 そこへラムダを引っぱってきたシャララが、やって来ました。 「ええっ〜、なあ〜に？セシン！何やってるのー！？」 シャララはその光景に、目を丸くしました。 セシンは親衛隊から借りた剣を右手に持って太陽の光にかざし、得意げにシャララに剣先をグルグル回して見せました。 「シャララ様、バカザリオーとちょっと遊んでやるだけさっ！」 「セシン、魔法はナシだぞ！」 「わかってるさ、魔法はナシさっ！人間並みのモードでつき合ってやるから、そう心配するなって、ザリオー」 もう仕方ないという風に、クレオも肩をすくめました。 シャララに走り寄ってきたカシム王子が「キィキキィ〜」と心配そうな声を上げました。 「行くぜ！小僧」 ザリオーは、セシンに向かって突進しました。 ひらりと、身の軽いセシンは軽く跳んで、その攻撃をかわします。 今度は軽くステップをふむと、セシンの剣がザリオーの右肩へと飛びました。 しかし、すかさずザリオーの剣が、正面からその攻撃を受けます。練習用の木刀とは言え、すごい迫力でした。 「きゃああ〜！」 思わずシャララは叫びました。 「バカ力だけかと思ったら、けっこうやるじゃん！」 力のあるザリオーの剣を自分の剣で受けとめて、セシンはニヤリとしました。 「おまえもな、ランプの小僧！」 ザリオーがそう言った瞬間、セシンがこん身の力でザリオーの剣を押し戻しました。 「しかし、まだオイラとやるには、千年早いぜっ！」 ばっと、真上に向かって、剣をふりかざしてセシンは跳び上がったのです。 見物人たちが、思わず息を止めて静まりかえった、その時！ 何とも言えない美しい歌声が、カシムの輝き号の甲板にひびいたのです。 ザリオーに向かって剣をふり下ろしながら、セシンは空中で少しバランスを崩しました。 「やばい！あの歌声は・・・？！」 セシンは叫びました。 「やばいぜっ！オイラとしたことが、こいつに気付かなかったとは・・・」 くるっと空中で一回転すると、セシンは甲板の上空へと魔力で飛び上がったのです。 つづく |