| 第８話 人魚の歌にご用心！（上）の巻 その２ | |
| 「逃げるのか！？」 ザリオーが叫びます。 「この試合は、しばらくおあずけだ！ザリオー！」 そうセシンが叫んでいるその間にも、美しい歌声は甲板にひびいていたのです。海の彼方からする、この世の物とも思われない透明な美しい歌声・・・。 甲板の上空からセシンが叫びました。 「みんな、急いで耳をふさぐんだ！こいつは、海の魔女サイレーンの歌声だ！聞いたら最後、海の墓場まで連れてかれちまうぜ！」 その言葉に、船乗りたちがさわぎだしました。 「サイレーン！？」 美しい歌声の魔力で船乗りたちを海へ引きずり込むという、海の魔女の伝説を船乗りたちはみな伝え聞いているのです。 「あああっ！あれを見て！」 シャララが叫びました。 海の彼方に、キラキラと銀色に光るものが見えたのです。飛び魚の群れが、海の上をはねているようにも見えます。しかし、それは魚の影ではありませんでした。 「人魚〜！？」 シャララの叫びに、上空からセシンが叫びます。 「シャララ様、あれがサイレーンなんだよ！何やってんだ！？早くみんなの耳をふさぐんだ！！みんな、おかしくなりかけてるぞ！」 「えええっ？」 シャララは、はっとして周りを見回しました。 セシンの言うとおり、船乗りたちや親衛隊の人々の様子がおかしいのです。 ある者は、船の手すりにしがみついて、水平線の彼方をぼっーとしてみつめています。 何人かの船乗りたちは耳をふさいでいるのですが、その船乗りたちもサイレーンのいる海の方角をやはりぼっーとした表情でみつめているのです。その表情はいつもの威勢（いせい）のいい船乗りたちや、勇かんな親衛隊の兵士たちのものではありません。  サルの姿のカシム王子も船の手すりの上に立って、ぼっーとサイレーンの姿を見ているのです。クレオだけはいち早く危険を察したのか、両手で耳をふさぎ、海に背を向けてうずくまっています。ラムダが思いついたように、ボソッと言いました。 「船室のどこかに、船乗りたちが使う耳せんがあったはずですわ。あれで、男たちの耳をふさいだらいかがでしょう。」 「あ〜！たぶん、船乗りたちの道具がいっぱい置いてある所ね。私、探してくるわ！」 叫ぶやいなや、シャララはもう船室へと続く階段の方へと走り出していたのです。どうしたわけかシャララとラムダだけには、海の魔女サイレーンの歌は利いていないようでした。 「オイラは、船の男たちが変なマネをしないように、見張ってる！」 空中でセシンが、シャララに向かって叫びました。 シャララは階段に足をかけたまま、降り返って空を見上げ、セシンにニコッと笑いかけました。 そのシャララをチラッと見てから、すぐ甲板に視線を戻したセシンは叫びました。 「あー！また！バカザリオー！！」 ザリオーがいつの間にか、カシムの輝き号の舵（かじ）を握っていたのです。船をサイレーンのいる海の方向へと向けようとしているのでした。 セシンは空から急降下して、甲板のザリオーを押さえ込もうとしました。 「何やってんだ！こんのバァカ！！」 「放せ！小僧！」 すっかりサイレーンの歌の魔力にかかってしまっているザリオーは、止めるセシンをばか力でふりほどこうとします。 「こんのバカ！」 セシンは一発、ザリオーの腹に思いきりパンチをくらわしました。 ザリオーは前のめりに倒れて、気絶してしまったのです。 「・・・ったく、思ったより早く、決着がつけられたぜっ！」 セシンはつぶやくと、急いでサイレーンのいる海から離れるように、船の舵をとったのです。 甲板の上ではシャララとラムダが、みつけてきた耳せんを走り回って無理やり男たちにつけています。船が離れた事でサイレーンの歌声も小さくなり、船乗りたちにも少しずつ落ち着きが戻ってきたようでした。 「・・・何とか間に合ったようだな。サイレーンの歌声に引き込まれて、船ごと海の墓場まで連れて行かれたら、大変なことだったぜ！」 セシンは、ほっとしてつぶやきました。 「セシン！ありがとー！」 シャララが男たちに耳せんをつけ終わりセシンに走り寄った時、甲板の上を転げるように子ザルの姿のカシム王子が走って来たのです。 「キィー、キキキキィ！」 カシム王子はとてもあわてていました。シャララとセシンに何かを必死で伝えようとしているようです。 「何？どうしたの？カシム王子様？」 「何だってんだよっ？」 「キィキィキキキィ〜！」 昼間は人間の言葉をしゃべれないカシム王子は、何度も親衛隊の兵士たちと海を交互に指差します。 「えっ？まさか、誰か歌に引き込まれて、海へ？」 「いや、みんないるだろ？船乗りたちはみんないるようだし、親衛隊の奴らは・・・。クレオに確認させるか？クレオー〜〜〜！」 いつも通り、誰に対しても横柄（おうへい）な口を聞くセシンが、クレオを呼んだ時、カシム王子がひときわ大きな声で「キィキキキキィ〜！」と叫びました。 はっとして、シャララとセシンは、顔を見合わせました。 「えっ？クレオ？」 「え〜〜！？クレオさん？」 シャララとセシンは、同時に叫びました。 「だって、クレオさんは、きちっと耳をふさいでいたわよ〜！？」 「あのカタブツが？！」 カシム王子は、二人の言葉に大きくコクッコクッとうなずいたのです。 仕事熱心でマジメな親衛隊の隊長クレオは、どうした訳かサイレーンの歌に引きずり込まれて、危険な人魚達の待つ海へと飛び込んでしまったのでした・・・。 つづき |