| 第１２話 ゆうれい船の謎（中）の巻 その１ | |
| 不思議な光に包まれて、ゆうれい船は、カシムの輝き号の目前の海に浮かんでいるのでした。 「あの人が、シャララさんのお母さまなのですか？」 死者の姿におびえていたカシム王子も、シャララの言葉に気付いたのでした。 「母さん・・・」 王子の問いには答えず、シャララはただじっとその女性を見つめていたのです。 その女性もまた優しげな笑みを浮かべ、船の中からじっとシャララを見つめているのでした。 シャララもカシム王子もクレオ達も、明け方までその不思議なゆうれい船に見入っていたのでした。 カシムの輝き号が船をさけて右に進路を取ろうとすると、そのゆうれい船も右に動き、左に進路を変えようとすると、ゆうれい船も左に動くのでした。ゆうれい船はカシムの輝き号から離れず、かといってそれ以上近づくわけでもなく、朝までカシムの輝き号の目前にいたのでした。 そして明け方の光がさす頃、光に溶けるように、突然ゆうれい船は消えてなくなったのです。 「俺とザリオーが見たのは、俺たちが親衛隊に入った頃の隊長です。２年前に砂漠の盗賊との戦いで命を落としたはずの・・・。あれは、確かに亡くなったハッサン隊長の顔でした」 朝、船の今後をラムダに占ってもらうために、シャララとラムダの部屋を訪れたクレオは、二人にそう語ったのです。 シャララとカシム王子が夜中に甲板に現れた事については、クレオを何も言いませんででした。 それ程クレオの頭の中は、死んだはずの人間を見た事で一杯だったのです。 カシム王子は朝になる前に、変身の苦しみをクレオ達に見られないように、すばやく自分の部屋に戻っていたのでした。 水晶玉をじっと見つめていたラムダが、占いを終えて、クレオの方を向きました。 「水晶玉には、カシムの輝き号の危険を示すものは何にも出ておりませんわ。船は、このまま真っすぐ海を進むべきですわ」 いつもと変わらないクールな表情で、ラムダはクレオに言ったのです。 シャララはその場にじっと座って、黙って二人の話を聞いていたのです。その顔には、いつもの快活な表情は浮かんでいませんでした。 クレオが納得がいかないという顔で、ラムダに言いました。 「レピウスの島は、もう目前です。 しかし島の周囲の海は、激しい渦を巻いていて、船を進める事が困難なのです。確かに潮の関係で夜には渦がおさまりますが、夜はあのゆうれい船にじゃまされてしまいます。それを一体どうすれば良いと言うのです？」 クレオはうめくような声で言いました。 「王子の為に一日も早く、レピウスの島に着かなければいけないと言うのに・・・」 「そうだ、シャララさん、セシンは？セシンは何と言っているのです？」 クレオはサイレーンの事件以来、セシンには一目置いているようでした。 「え？はっ？セシン？」 夢からさめたような顔で、シャララは答えました。 「セシンね！今、セシンを呼んでみるわね！」 シャララはランプを手に取ると、急いでこすってセシンを呼び出したのです。 クレオからゆうれい船の話について聞いたセシンは、不きげんそうに言ったのです。 「何でオイラを先に呼んでくれなかったんだよ！オイラが見ていれば、そのゆうれい船の正体が分かったものを・・・」 「俺とザリオーは亡くなった親衛隊の隊長を、カシム王子は亡くなった家庭教師を、シャララさんは亡くなった母上を見たのですよ」 「ふーん。そんなら今夜は、オイラがそいつを見てみるよ。オイラはおまえらとちがって、数百年にわたっていろんな物を見てきているからな」 クレオが説明の為に机の上に広げた海図を、セシンはちらっと見ました。 「クレオの話だと、渦が静まる夜の間に、船を進めたいんだろ？だったら、船乗りたちは全員起こしとけよ。レピウスの島ってヤツはオイラは知らないが、もう目と鼻の先に来てるんだろ？ラムダの占いと同じで、オイラも今、特にこの辺りに危険なものは感じないしな」 セシンと話し終えると、クレオとラムダは船長と船乗りたちに説明する為に、部屋から出て行ったのです。二人が出ていくと、セシンは不きげんそうな表情で、もう一度シャララに言ったのでした。 「何で、昨日のうちに、オイラを呼び出さなかった？」 「ごめん、セシン。カシム王子と・・・」 約束して、と言う言葉をのみ込んで、シャララは言ったのです。 「ゆうれい船を確かめてから、セシンに相談しようと思ったの」 「ふ・・・ん。仲のよろしいことで・・・」 いっそう不きげんな声で、セシンは言いました。 「おまえら人間とちがって、オイラは数百年以上いろんな物を見てきてるから、魔法が使えない時でも、色々知恵は出せるものを・・・」 セシンは、シャララの顔を見て言ったのです。 「あのボウヤ、レピウスの島が近づいてきてるから、呪いが強くなって、苦しんでるはずだ。 一刻も早くレピウスの島にたどり着きたいってのが、シャララ様の願いだろ？だからオイラだって、こんなに力を貸してるんだ。それを・・」 セシンはイライラした様子で、語気を強めてシャララに言ったのです。 「一日ムダにしてしまったとしても、それはオイラの責任じゃないぜ」 その夜、カシムの輝き号の全員が起きていました。甲板には煌々（こうこう）とたいまつが灯され、普段の夜とは違う明るさでした。 甲板の上には、カシム王子も、クレオもラムダも、セシンも、もちろんシャララもいました。皆が今夜は夜通しゆうれい船を見張るつもりだったのです。 つづく |
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